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2012.09.10
気胸について
昨日からニュースで、とある芸人さんが気胸になったということが話題になっています。
今日はこの気胸について書こうと思います。
正式な病名は「自然気胸」といい、報道のように10-30代男性、痩せ型、高身長に多いとされています。
原因はまだはっきりとはされていませんが、幼少期の感染や気管支喘息により肺に弱い部分ができており、肺のその部分が重力で長細く成長した際にひっぱられ、何かの負荷(大声をだす、運動など)で破れてしまうともいわれています。弱く変化したのう胞状の部分をブラといいます。
一方で、喫煙者に多い場合はもう少し年齢層が上がり、肺に気腫性変化がおこり、弱くなったのう胞状の部分(この部分をブラといいます。)が咳やくしゃみなどのきっかけで破れます。
また、これ以外に肺癌ができた場合にその周囲から肺が破れることもあります。
症状は胸痛、背部痛、胸や背中の違和感、呼吸困難感です。患者さんよっては繰り返すことがあり、「せんせ~、また破れたみたいや~」といってやってきた高校生もいました。繰り返すと、患者さんも症状でわかるようです。「こんどは右や~レントゲンとって~」と言ってくる人もいました。
この気胸という病気は簡単に言えばタイヤのパンクと同じです。治療はパンクの修理なのですが、レントゲンで、パンクの程度が軽い状態ならば、安静で経過をみます。この程度がひどくなると外から、胸にチューブをいれ、肺からもれでた空気を外に出してやることで、肺が膨らむことを助け、膨らんだ状態で数日おいておくと、破れた穴がふさがり、(傷口が閉じるということです。)肺がしっかり膨らみます。ここでいきなりチューブをぬくと傷のふさがりがあまいと、またしぼんで閉まってはいけないので、クランプテストといってチューブを閉じた状態を抜く前に仮に行い、しぼまないことを確認してからチューブを抜きます。ここまで行けば退院できます。
さて、肺が膨らまない、もしくは繰り返す場合はどうするか・・・
穴が大きいと膨らみきらない場合があります。そのときは手術で破れた部分を切り取ってホチキスみたいなものでガシャンと閉じてしまいます。繰り返す場合も同じです。穴がわからないときは胸の中に水をはって穴をさがします。本当にパンクの修理のときのようです。
高校生や大学生、社会人成り立てのころに多いこの病気では、社会生活への影響が問題になります。繰り返せば、そのたびに入院して1~2週間学校や会社を休まねばなりません。人によっては受験のときになっては大変です。そのため、状況によっては主治医と本人、ご家族と相談のうえ、1度目でも手術になる場合もあります。
手術をしても破れる人がいます。その場合は胸膜癒着術といい、胸の中に薬などをいれて、人工的に肺を肋骨のある胸壁に癒着させ、破れない、破れてもしぼまないようにする方法もあります。
この病気、命にかかわらないように思われるかもしれませんが、一歩間違えれば、突然、死が襲う病気でもあります。
昔、人気の救急病棟のドラマで気胸になった人が救急車で搬送途中に意識がなくなる・・・そこで主人公の救急医が針を数本胸に刺して助ける・・・というシーンがありました。このシーンこそ「緊張性気胸」の典型です。気胸の患者さんは話したり、歩いたりがある程度できます。ところが、肺がやぶれて漏れ出た空気が肋骨のある胸壁で囲まれた胸くう内にどんどんたまると、心臓や食道といった臓器が集まる「縦隔」という部分を反対側に押してしまいます。この状態を緊張性気胸といいます。こうなってしまうと、さきほどまで、元気に話していた人が急に血圧が下がり意識がなくなってしまいます。適切に空気をたまった胸くうから出してやることでこの状況は解決するのですが、空気を抜いてやれないと、そのまま、残念ながら死という結果になります。
私も過去の経験で、救急でやってきた気胸の患者さんにチューブを入れる準備をしていたときに、患者さんが元気に話していたところ、急に話さなくなり、目が白黒してきたので、「これは!」と思い、チューブを急いで入れたところ、チューブの内筒が勢いよく飛んでいきました。その後すぐに患者さんは意識を取り戻されました。胸くう内に大きな圧がかかっていたために内筒が飛び出していったのでしょう。普通は飛びません・・・たくさんの患者さんにチューブを入れる処置を行いましたが、このときが一番早く入れることができたと今でも思います。隣にいた普段は厳しいベテラン看護師さんが、「はやかったわ~」と珍しくほめてくれました・・・その後に「気胸って、こわいんやわ・・・」とぼそっといっていました。私もそう思います。気胸って恐いです・・・