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2012.08.22

中皮腫裁判に思うこと

中皮腫の裁判が控訴され継続となることを新聞で読みました。新聞では小さな扱いでしたが、この記事に私は目をひかれました。

学生時代には「中皮腫はあまり見ない病気、昔は組織判定で診断も難しく、病理医が集まって投票で決めていた」と、講義で聞いた記憶があります。

中皮腫で有名な大学に勤めていたわけではないわりには、私は比較的多く、中皮腫の患者さんを担当させていただきました。はじめて中皮腫の患者さんを担当させていただいたのは、今裁判をしている工場に比較的近い病院でした。そのころはまだアリムタもありませんでした。上司は「なんのケモ(化学療法)やっても効かへんのや。手術できればいいけど、してもあとがしんどいはなぁ。」といい、苦しめるだけの化学療法に異論をもち、治療に消極的でした。その先生に、「なんでこの病院には中皮腫の人が多いのですか?めったにない病気と講義ではならいましたけど?」とたずねると、「・・・・○○○が原因なんや。あの工場の周囲に患者さんの家を旗たててみろ。このへんの呼吸器の医者はみんな、そう思ってる。」とボソッとうつむいて答えてくれました。「でも、女性が多いですよね?」ときくと、「それはな、みんな持って帰った作業着をかあちゃんが洗うやろ。だからなんや。洗う前に、粉払うやろ?昔の洗濯機は外やった。だから、家に工場の人間がいなくても周囲の家の人間もなるんや。だから、専業主婦でもなるわけや・・・」

その後勤めた数軒の病院でも中皮腫の患者さんを担当することがあり、原因(石綿との関連)を探すもののはっきりしないことは多かったです。また、これまでは造船所のあった地域などで多いとされていましたが、今後は震災のあった阪神間、東北は数十年後に中皮腫が増える可能性もあり、アリムタ以上の治療薬の開発を期待したいと思います。アリムタは確かに副作用は大きくなく、使いやすい薬剤で効果もこれまでの薬剤より「ある」とは思います。ですが、この効果は『わずかな』生存期間延長でしかありません。医師にとって、学者にとっては『有意で大きな』生存期間延長というデータですが、患者さんにとってはまだまだ、『わずか』でしかないと思います。それでも、この治療にかけ、やせ細り、これ以上は体力を消耗するだけという状態でも「もう一度、アリムタで治療して欲しい、おねがいや。」と懇願された患者さんのことを私は忘れられません。

今現在係争されている患者さんとそのご家族にとって納得のいく判決が出ることを願います。

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